食道がんとは
食道は、のどから胃の入り口までの管状の臓器のことで、食べ物を分解・吸収する消化には関与せず、食べ物を胃へ運ぶ役割を担っています。食道がんはその食道内側の粘膜から発生します。
疫学的には、40-50歳代頃から徐々に増え始め、60歳代・70歳代が全体の約7割を占めます。男性に多く(男女比6:1)発症します。日本の食道がんのほとんどを占める食道扁平上皮がんは、飲酒習慣や喫煙習慣、両方の習慣を持っている人にかかりやすいことが分かっています。
食道がんの患者さんは、食道がんが見つかると同時にあるいは1年以上の間をおいて他にもがんが見つかる可能性が約23%と多いのも特徴と言われています。がん種別では胃がん、咽頭がん、大腸がん、肺がんが多く発見されています。
がんが食道壁の粘膜の中にとどまっている場合を早期食道がん、粘膜の下層へ及ぶものを表在食道がん、粘膜下層よりもさらに深い層までがんが進行しているものを進行食道がんと呼びます。
国立がん研究センターが発表している食道がんの5年生存率によると、stage1で約75%、stage3で約25%、stage4は約8%です。Stage1(食道がんが粘膜下層にとどまり、かつリンパ節転移がない)でも4人に1人は致命的となり、stageが進むにつれ、さらに厳しい予後となっていきます。しかしながら、食道がんの中でも、stage0の早期食道がんを内視鏡検査で発見することができれば、内視鏡治療によって根治することが可能です。
食道がんの原因
日本における食道がんの原因は飲酒と喫煙です。日本の食道がんの約90%を占める食道扁平上皮がんは、飲酒と喫煙が発生要因となっているからです。飲酒習慣と喫煙習慣がいずれもある場合は、さらに発症リスクが高まります。
また、飲酒の際に体内で発生するアセトアルデヒドという発がん性物質を分解する働きが遺伝的に弱い人は、食道がんを発症しやすくなります。具体的には、お酒を1滴でも飲むと顔や体がすぐ真っ赤になってしまうような人のことです(Hot flusherといいます)。
若い時は酒に弱く、すぐ赤くなったけど、「鍛えられているうちに飲めるようになり、赤くならなくなった」というのが危ないパターンです。このような人は、体内にアルデヒドが蓄積しやすく、食道がんを発症する危険性が高いので要注意です。
また、食生活において、栄養状態の低下や果物や野菜を摂取しないことによるビタミンの欠乏も発生要因とされ、緑黄色野菜や果物を摂取することは予防に効果的とされています。
一方、食道腺がんは、日本の食道がん全体の約4%しかなく、患者数が少ないため、日本における発生要因は明らかになっていません。欧米では食道腺がんが食道がん全体の約半数以上を占め、増加傾向であり、胃食道逆流症による下部食道の持続的な炎症によってできるバレット上皮がその発生母地として知られています。そのため欧米では、胃食道逆流症の存在やその原因となる肥満、喫煙などが食道腺がん発生に関係があると言われています。
従って、食道がんにならないためには、まずは禁煙・禁酒が非常に重要となります。
食道がんの症状
食道がんは、初期には自覚症状がないことがほとんどです。
食道がんが進行するにつれて、飲食時の胸の違和感(胸の奥がチクチク痛む、熱いものを飲み込んだ時にしみる感じがするなど)、飲食物がつかえる感じ、体重減少、胸や背中の痛み、咳、声のかすれなどの症状が出現するようになります。
従って、特に食道がんのリスクがある人(高齢・男性・飲酒や喫煙習慣がある)は、自覚症状がなくても、定期的に年1回の胃カメラ検査を受けていただくことをお勧めします。
早期食道がんの内視鏡診断と治療方針
内視鏡検査は病変のわずかな色調や凹凸の変化を捉えられるため、自覚症状がないことがほとんどである食道早期がんの発見に必要不可欠な検査です。このようなごく早期のがんは内視鏡で発見されています。
食道がんの深さ(壁深達度)は、粘膜下層までと推定される表在がんと、固有筋層以深に及ぶと推定される進行がんに分けられます。表在がんのうち、壁深達度が粘膜までのがん(粘膜がん)を早期がんと呼びます。壁深達度とリンパ節転移の頻度は密接な関係にあります。粘膜表層までのがんにはリンパ節転移がほとんどないことから、内視鏡治療で根治が可能です。
内視鏡では、病変の部位や範囲、形態を詳細に観察します。がんかどうかは内視鏡所見から多くの場合判断できますが、がんの組織型を確認する目的で生検を採取して、病理組織学的検査を行うことがあります。また、通常の内視鏡観察に加えて、Narrow Band Imaging(NBI)という狭帯域光観察を併用すると、病変の領域が明瞭となり発見に役立ちます。
表在がんの精密な壁深達度診断は内視鏡検査で行います。拡大内視鏡は食道表面を拡大し、病変部の微細血管形態の変化を観察する方法です。血管形態の違いから、良悪性の鑑別診断や表在がんの深達度、がんの浸潤様式の評価などの精密診断を行います。NBIを併用すると微細血管が見やすくなります。拡大観察による微細血管診断の精度は高く、特に内視鏡治療の適応となる粘膜表層がんの診断能は非常に良好です。
深達度が粘膜にとどまるT1aがんか、粘膜下層に達するT1bがんかにより初回治療法が異なり、T1aがんでは内視鏡切除が、T1bがんでは手術や化学放射線療法(化学療法と放射線治療を併用する治療法)が治療の中心となります。また、T1aがんであっても、病変が広く、内視鏡切除後に食道が細くなる(狭窄といいます)可能性がある場合は、手術や化学放射線療法を行うことがあります。また、検査で粘膜にとどまると判断して内視鏡治療を行った後、病理組織検査で粘膜より深く浸潤していた場合には、手術や化学放射線療法などの追加治療が行われることがあります。
当院の食道がん検査
胃カメラ検査では胃と同時に食道も観察します。従って、食道がんは、胃カメラ検査を受けることによって発見されます。当院では、早期食道がんの診断経験が豊富な院長が、胃カメラ検査時に通常観察およびNBI観察による食道スクリーニング、必要に応じてNBI拡大内視鏡検査や生検を行うことが可能です。また胃カメラ検査は怖い、つらくて苦手という方には鎮静剤を用いて楽に検査を受けていただくことが可能です。
早期食道がんが見つかる場合とは、飲酒・喫煙の習慣がある人が、偶然何らかのきっかけで胃カメラ検査を受けた時です。特に無症状の時に胃カメラ検査を受けた場合は、早期食道がんの段階で見つかる可能性が高くなり、早期発見・早期治療につながります。飲酒・喫煙の習慣がある人は、年1回の定期的な胃カメラ検査が食道がんの早期発見・早期治療につながります。
食道がんを内視鏡治療で根治が可能な段階とは、がんが粘膜内にとどまっている早期食道がん(cT1a、stage 0)です。この事実は、発見されるタイミングが非常に重要であるということを示しています。少しでもがんのstageが進んでしまうと、内視鏡治療のタイミングは逸してしまいます。従って、食道がんのリスクがある方は、ぜひ1年に1回の定期的な胃カメラ検査をお勧めしたいと思います。
当院では、胃カメラ検査で食道がんを発見したら、治療実績の豊富な専門の医療機関へご紹介しています。そこで無事、入院治療を受け、完治した後は、引き続き当院で定期的な内視鏡検査フォローを受けていただく病診連携の医療体制をとっています。早期食道がんの内視鏡治療後も、経過観察中に食道の別の部位に新たな食道がんができることが多いため(異時性多発がんと言います)、年1回の定期的な胃カメラ検査が大切です。
食道がんに関することで何か気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。