逆流性食道炎

逆流性食道炎とは

逆流性食道炎 まず定義をお示しします。胃食道逆流症(GERD)とは、胃食道逆流により引き起こされる食道粘膜傷害とその自覚症状のいずれかまたは両者を引き起こす疾患のことを指し、食道粘膜傷害を有する「逆流性食道炎」と、症状のみを有する「非びらん性食道症(NERD)」の2つに分けられます。これが厳密な定義ですが、実際の診療現場では細かい分類はさておき、胸やけの症状があり、胃カメラで食道に傷が確認されたら、「逆食(ぎゃくしょく)」または「GERD(ガード)」、症状があっても胃カメラで異常がない場合は「NERD(ナード)」と呼んでいます。
 さて、通常の食道と胃のつなぎ目(食道胃接合部と言います)では、下部食道括約筋(LES)によって胃酸が食道側に逆流しないように防いでいますが、何からの誘因によって一過性のゆるみ(一過性LES弛緩と言います)が生じると、胃酸が食道内へ逆流し、食道粘膜傷害をきたします。  
 誘因として、甘いものや脂肪の多い食事、食べ過ぎ、食後すぐに横になる、体重の増加、ストレスや睡眠不足などが挙げられます。 
 逆流性食道炎は、成人の約10人に1人がかかる病気と言われており、日本では1990年代後半から患者数が増加しています。私が外来診療をしている実感としては、20歳代から30歳代の若い世代が最近は多いという印象があります。また、仕事の働き方の変化による生活習慣への影響が非常に大きくなっていることを痛感することがあります。男女ともに多いですが、世代、性別、生活環境によってひとりひとりの背景があるため、生活習慣の是正はひとりひとりで対応が少しずつ異なってきます。薬物治療は酸分泌抑制薬(PPI)を服用します。
 NERD(ナード)は、自覚症状は逆流性食道炎と同じですが、胃カメラ検査で食道に傷がない場合を指します。逆流性食道炎と比べると女性に多く、低体重の人に多いと言われています。また、酸分泌抑制薬による治療の反応性が約50%程度と低く、酸以外の胃食道逆流の原因として、食道知覚過敏が近年では指摘されており、国内外で病態の研究が続けられています。治療は酸分泌薬抑制薬と、それ以外では、食道運動改善薬や漢方薬などを用いますが、完全に症状が消失しないケースもみられます。
 また、稀ですが、一般的な内科的治療に反応せず、生活の質QOLが著しく低下している場合は、酸逆流防止のための腹腔鏡下手術や内視鏡的手術を考慮したり、食道運動障害という病態を疑って食道内圧検査や食道pH検査などの特殊検査を行ったりします。当院ではそのような病態が疑われた場合は、専門の医療機関をご紹介しています。

代表的な症状

  • 胸焼け
  • 呑酸(どんさん)
  • げっぷ
  • 胃もたれ
  • 声枯れ、のどの違和感 など

※呑酸とは、酸っぱいもの・苦いものが上がってくる症状のことです。

逆流が起こる原因

脂肪の多い食事

 脂っこい食事をとると、その分、消化にも時間がかかり、胃酸がたくさん分泌されやすくなります。

過食(食べ過ぎ)

 満腹まで食べてしまうと、胃の内圧が高くなり、食道内へ内容物が逆流しやすくなります。一般的に胃の消化には約1~2時間かかりますが(条件によります)、食後すぐ横になってしまうと、食道よりも胃の内圧が高くなっているため、胃酸を多く含んだ胃の内容物が物理的にも胃から食道に移動しやすくなることや、横になっている状態が長くなるだけ食道への酸暴露の時間も長くなってしまいます。

体重増加

 体重が増えると腹圧が高くなるため、下部食道括約筋(LES)はゆるみやすくなってしまいます。

ストレスや睡眠

 中枢性に食道知覚過敏性を高め、症状を生じやすくなっていると言われています。

円背(腰曲がり)

 中高年では骨粗鬆症やそれに伴う脊柱圧迫骨折によって背中が曲がってしまうと、腹圧が上昇しやすくなり、酸逆流が生じやすくなります。

逆流性食道炎の検査

胃カメラ検査 自覚症状があれば、まずは薬物治療で症状が改善するか反応をみることもできますが、確定診断を行うために胃カメラ検査が必要です。胃カメラ検査によって、逆流性食道炎の診断や重症度を判断したり、食道がんや好酸球食道炎、カンジダ食道炎など他の食道疾患の有無を調べたりします。また、逆流性食道炎にはgrade A~Dまでの内視鏡的重症度分類があり、治療や予後を予測するうえで参考になります。
 胃カメラ検査を行うと、食道裂孔ヘルニアといって食道と胃の間に余分な隙間ができている状態がよく見つかることがあります。食道裂孔ヘルニアも胃酸逆流を生じやすくなる要素の一つではありますが、ほとんどの場合は程度が軽いため、食道裂孔ヘルニア自体に対する治療を行うことはありません。非常に稀ですが、食道裂孔ヘルニアに対して治療を行うケースとしては、ヘルニアの隙間が大きすぎて、胸腔内に胃がはまり込んでしまう重症例は、外科的手術によってヘルニアの隙間を修復し、正常な解剖学的位置に修正する方法があります。

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逆流性食道炎の治療

生活習慣の改善

 一番安上がりかつ健康的であり、第一選択の治療法だと思います。生活習慣の改善だけで自覚症状が消失することはよくあります。皆さんも当てはまるところがあれば、できるところから変えてみてはいかがでしょうか。できることから、実行することを声に出して、まずは行動してみましょう。

食事

食事はよく噛んで、ゆっくり食べましょう。揚げ物などの脂っこい食事は少なめとし、食事量は腹8分目までとしましょう。夕食がどうしても遅くなってしまう人は、夕食を軽めにし、朝食や昼食のボリュームを多くするとよいです。甘いものや柑橘系の果物類をとると症状が誘発されることもありますので、該当する場合は控えましょう。間食は酸分泌を必要以上に促してしまいますので、できるだけ控えましょう。暴飲暴食のもととなるストレスは別の方法で発散するようにしましょう。

睡眠

食後の適度な休憩は体と心を休め有効ですが、体を横にして休んでしまうと、食道や胃には負担となってしまいます。食後は座ったままリラックスした状態で休憩するとよいでしょう。夕食後はできるだけ2時間以上あけてから就寝するようにしましょう。枕を高くして寝ると、物理的に胃酸の逆流を防ぎやすくなります。十分な睡眠をとりましょう。

体重増加

20歳時の自身の体重と比べ現在の体重が増えていたら、減量が望ましいです。ダイエットは短期間で結果を求めず、日々の生活でついた癖を見直し、何か取り組みたいことを一つだけ決めて、新しい生活習慣を身に付けることによって、長期目標を持って楽しく取り組みましょう。減量ペースは1年で2-3㎏ずつを目安に。

喫煙

喫煙はLES圧を弛緩させ、酸逆流を誘発します。禁煙しましょう。

ストレス

ストレスを認識し、ストレス対処を話し合い、ストレスとうまく対応していきましょう。

薬物療法

 酸分泌抑制薬(PPI;プロトンポンプ阻害薬)が第一選択薬となります。PPIが効きづらい人にはより強力な酸分泌抑制薬(P-CABと言います)を服用します。治療効果は、数日で症状が改善する人もいますが、多くの場合は2週間以上服用し続けることによって効果が実感でき、通常は治療を8週間継続します。

 治療開始後の対応についてですが、イメージとしては内視鏡の重症度分類を用いて行い、あとは患者さん毎の症状に応じて対応していきます。内視鏡の重症度分類grade A~Bは軽症のため、PPIの内服によって改善したら、PPIを一旦止めてみて、自覚症状が再燃しほぼ毎日続く場合は、PPIの内服を再開し毎日服用を継続します。一方でPPIを止めてもたまにしか症状が出現しない場合は、症状が出た時だけPPIを頓用で服用する“On demand療法”への切り替えも可能です。しかし、重症度分類grade C~Dは重症であり、PPIの内服による治療の継続が大切です。このような場合で薬物治療を途中で止めてしまうと、食道の傷から出血して吐血したり、食道の炎症が強くなって食道が狭くなってしまう食道狭窄をきたし、食べ物のつかえ感や食後の嘔吐が出現したりする場合があるため要注意です。

 NERD(ナード)については、胃カメラ検査で診断後、逆流性食道炎と同様に酸分泌抑制薬(PPI)を用いて治療を行います。ただしPPIの効果は約50%程度ですので、PPI無効時は消化管運動改善薬や漢方薬などを追加したり、ストレスが誘因の場合はストレス対処を話し合ったりします。
他にも軽症の逆流性食道炎に対してはH2ブロッカーや胃酸を中和する制酸薬を用いたり、上部消化管手術後の逆流性食道炎に対しては専用の内服薬を用いたりすることがあります。

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