胃潰瘍とは
胃潰瘍とは、胃の中の粘膜がただれて胃壁に傷がついた状態のことを言います。胃液には、ペプシンなどの酸性の物質が含まれていますが、粘液によって胃壁や胃の粘膜はそのような物質から守られています。しかし、胃液と粘液の分泌バランスが崩れてしまうと、保護機能が低下し、胃潰瘍を発症します
原因
原因としてはピロリ菌感染が最多で、次に多い原因が痛み止めの副作用です。一般的には解熱鎮痛薬として用いられる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs;エヌセイズ)のことを指します。
ピロリ菌感染の正確な感染ルートはいまだに不明ですが、多くは幼少期に感染が成立すると言われています。2012年以降、日本ではピロリ菌の除菌治療が保険適応となり、除菌治療が普及しています。そのため、以前と比べ近年はピロリ菌による胃潰瘍・十二指腸潰瘍にかかる患者さんは減少傾向にあります。しかし、日本ではいまだにピロリ菌感染者が多く見つかりますので、まだピロリ菌の検査を受けたことがない方は、ぜひ一度検査をおすすめします。
また、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs;エヌセイズ)、いわゆる痛み止めによる胃潰瘍・十二指腸潰瘍のことをNSAIDs(エヌセイズ)潰瘍と呼びます。市販の風邪薬にもイブプロフェンやロキソニンなど痛み止めの成分が含まれたものがありますので、お近くの薬局またはドラッグストアでお薬を購入される際は、担当薬剤師に確認していただくとよいと思います。NSAIDs潰瘍の既往がある場合は、痛み止めを服用する際に酸分泌抑制薬(PPI)を併用すれば潰瘍を予防できます。もしも他院で痛み止めが処方される際は、担当医師にご相談ください。
症状
- 吐血
- 真っ黒な便(黒色便、タール便)
- 貧血
- 食欲不振
- 間欠的なみぞおち付近の鋭い痛み(心窩部痛)
- 吐き気、嘔吐
- 胸焼け など
皆さん胃潰瘍とお聞きになると「さぞ痛いのだろう」と想像されるかもしれませんが、実際に胃潰瘍で痛みを感じることはあっても頻度は多くありません。胃の表面の浅い傷だけは神経が走っていないため不思議と痛みは感じにくいからです。痛みが出るほどの胃潰瘍は胃潰瘍の傷が深い場合が多いです。
胃潰瘍と診断するきっかけになるほとんどの症状は出血症状です。胃潰瘍から出血すると、気持ちが悪くなり、血液を口から吐き出します(吐血)。また胃の中で出血した血液は胃酸によって鉄分が酸化され、どす黒い液体となって、腸を通過し、排便時に一緒に出ます。それが真っ黒な便(黒色便、タール便とも言います)であり重要な症状です。出血すると、貧血が進みますので、急激に出血した場合は冷や汗が出て、立ちくらみがしたり、ひどい場合は気を失ってしまう人もいます。また徐々に出血する場合は、疲れやすかったり、ふらふらしたり、慢性の貧血症状が現れます。おなかが痛くなる場合は、みぞおちから左の脇腹にかけて(心窩部痛)痛くなることが一般的ですが、痛みが非常に強い激痛の場合は、潰瘍が深くなり胃に穴が空いてしまった状態(胃潰瘍穿孔)の可能性があり、緊急手術になることもあります。
他には出血していなくても、食欲が落ちた、気持ち悪いなど胃の症状全般が、軽い胃潰瘍の診断のきっかけになることもあります。また、無症状で偶然、胃カメラ検査を受けた際に軽い胃潰瘍が見つかることもあります。
検査と治療
胃潰瘍の診断は胃カメラ検査で行います。胃カメラ検査で胃潰瘍と診断したら、現在出血しているかどうか、これから出血しそうかどうかを確認し、必要に応じて応急処置として止血治療を行います。胃潰瘍の程度によって翌日か翌々日に再度胃カメラ検査で状態を確認することもあります。出血症状が重く、輸血を要する場合などは、緊急で近隣の総合病院へご紹介することもあります。また、胃カメラ検査の際は、必要に応じて胃潰瘍の組織の一部を採取してピロリ菌感染の有無や、がん細胞が潜んでいないかどうかを調べることがあります(胃潰瘍に形態が類似した胃がんもあるため)。また必要に応じて胃カメラ検査以外のピロリ検査も行います。
治療
胃潰瘍の出血が止まっている状態であれば、胃酸分泌抑制薬(PPI)による内服治療を外来通院で約2か月間行います。初回診断から1週間程度は再び出血症状が現れることもありますので便の色が黒くないことを毎回確認してください。また、2か月間は、禁酒・禁煙です。痛み止めの飲み薬を服用中だった場合は、その痛み止めを中止します。2か月間は消化によいものをよく噛んでゆっくり召し上がってください。辛いものや脂っこいもの、硬いもの、カフェインを多く含む飲料水、炭酸飲料も控えてください。
治療2か月後に胃カメラ検査を再度実施し、胃潰瘍が瘢痕治癒していることを確認したうえで、胃潰瘍の原因がピロリ菌だった場合は、今後の潰瘍再発予防のためピロリ除菌治療を行います。痛み止め(NSAIDs;エヌセイズ)が原因だった場合は、今後も痛み止めの内服を再開する場合は酸分泌抑制薬(PPI)の併用が必須です。かかりつけ医がいる場合は必ずその旨を伝えておきましょう。
除菌成功確認後に胃潰瘍の治療はこれで終了となりますが、ピロリ菌に感染していた人は慢性胃炎(萎縮性胃炎)があり、将来的に胃がんになりやすいため、ピロリ除菌後は、年1回の定期的な胃カメラ検査をお勧めします。
十二指腸潰瘍とは
十二指腸潰瘍は、胃潰瘍と同じく胃酸と粘液の分泌バランスが崩れることで起こります。ピロリ菌感染や痛み止め薬(非ステロイド性抗炎症薬)の副作用が原因の場合が多いです。
なお、十二指腸の壁は胃壁よりも薄いため、出血や穿孔(穴が開く)など重症化しやすいという特徴があります。
20~40歳で多く発症する傾向にあり、また、どちらかと言うと男性の発症率が高くなっています。
原因
十二指腸潰瘍の二大原因はピロリ菌感染と痛み止めの飲み薬(非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs;エヌセイズ))です。その他にストレス、喫煙、アルコール、カフェイン飲料、香辛料なども誘因になりうると考えられています。
ピロリ菌が原因の場合は、10歳代~40歳代の若い世代で発症することが多いですが、近年はピロリ自然感染率の減少とピロリ除菌の普及に伴い患者数はだいぶ減ったという印象があります。一方で痛み止めを服用する高齢者が増え、それに伴って副作用による十二指腸潰瘍もやや増加傾向にあります。
ピロリ菌感染
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
痛み止めの飲み薬のことです。近くの薬局やドラッグストアで市販されている解熱鎮痛成分にもイブプロフェンやロキソプロフェンなどのNSAIDsが含まれていることがあるため、気になる方は担当薬剤師にご確認ください。
痛み止めによる胃・十二指腸潰瘍の既往がある方で痛み止めの処方を希望される場合は、必ず一緒に胃酸分泌抑制薬(PPI)を処方してもらいましょう。
主な症状
- みぞおちから右わき腹にかけての間欠的な痛み(心窩部痛)
- 真っ黒な便(黒色便、タール便)
- 胃もたれ
- 食欲不振
- 吐き気、嘔吐
- 吐血
検査・診断
十二指腸潰瘍の診断は胃カメラ検査で行います。胃カメラ検査で十二指腸潰瘍と診断したら、現在出血しているかどうか、これから出血しそうかどうかを確認し、必要に応じて応急処置として止血治療を行います。十二指腸潰瘍の程度によって翌日か翌々日に再度胃カメラ検査で状態を確認することもあります。出血症状が重く、輸血を要する場合などは、緊急で近隣の総合病院へご紹介することもあります。十二指腸にがんができることは極めて稀なため、胃潰瘍と異なり十二指腸潰瘍に対して生検を行うことはめったにありません。また、必要に応じてピロリ菌の検査を行います。
治療
十二指腸潰瘍の出血が止まっている状態であれば、胃酸分泌抑制薬(PPI)による内服治療を外来通院で6週間行います。初回診断から1週間程度は再び出血症状が現れることもありますので便の色が黒くないことを毎回確認してください。また、内服治療中は、禁酒・禁煙です。痛み止めの飲み薬を服用中だった場合は、その痛み止めを中止します。2か月間は消化によいものをよく噛んでゆっくり召し上がってください。辛いものや脂っこいもの、硬いもの、カフェインを多く含む飲料水、炭酸飲料も控えてください。
治療終了後は十二指腸潰瘍が瘢痕治癒していることを胃カメラ検査で確認します。十二指腸潰瘍の原因がピロリ菌だった場合は、今後の潰瘍再発予防のためピロリ除菌治療を行います。痛み止め(NSAIDs;エヌセイズ)が原因だった場合は、今後も痛み止めの内服を再開する場合は酸分泌抑制薬(PPI)の併用が必須です。かかりつけ医がいる場合は必ずその旨を伝えておきましょう。
ピロリ菌の除菌療法
酸分泌抑制薬と抗生剤2種類、それとおなかがゆるくならないように整腸剤を併用し、1週間服用します。
ピロリ除菌によってピロリ菌が原因の胃・十二指腸潰瘍を予防し、さらに慢性胃炎の範囲拡大を防ぎ、胃がんの発がん率をやや低下させます。
ピロリ菌に感染していたことがある人は将来的に胃がんになりやすいため、ピロリ除菌後も、年1回の定期的な胃カメラ検査によるフォローをお勧めします。